心のレガッタ

 


僕は大学最後の年、某出版社でアルバイトをしていた。


バイト先のの先輩が、同じ大学出身で、ある日飲みに行こう、という話になって学校のある町の飲み屋に案内してもらった。


雑居ビルの地下に降りて扉を開くと、それはそれは、おしゃれな世界が広がっていた。


打ちっ放しのコンクリートの壁に、カウンターの照明は天井からぶら下がったタイプ。


当時大流行だったビリヤード台がさりげなく置かれ、漫画のハートカクテルに出てくるようなおしゃれなお店だった。


僕はこのお店に一目惚れをした。


大学の卒業式の夜、ゼミのメンバーで最後に飲んだのもこの店だった。


働き出して久々に行ってみようと思い、滅多に行かない街に行ってみると、そのお店は潰れていた。「ケリーズバー」というお店だったが、跡形もなく消え去っていた。


代わりに、木綿屋という和食屋さんになっていた。


コンクリートの打ちっ放しだった壁は和風の壁に変わりメニューもすっかり変わっていた。


高田馬場界隈には COTTON CLUB というバーがありこの系列が和風のもめんやという店を出したという噂話を聞いたことがあるが本当のことはわからない。


当時放送されていた浜田省吾のテーマ曲の愛という名のもとには「レガッタ」と言うボート部のメンバーの溜まり場のお店があった。


仲間と飲みながらこの店を「心のレガッタ」と呼ぼうぜと話していたのだが、儚いものだ「心のレガッタ」はあっという間に「心のレガッタ」になってしまった。


結局卒業式の日は朝までどんちゃん騒ぎをし朝の冷えた空気の中、西荻に帰り、近所のサンクスでサンドイッチを買って寝た。この季節になると、この朝の雰囲気を思い出す。