「私の事知ってますよね」

まずはこのポットをご覧いただきたい。




……どうだろう、見覚えがあるだろう?

CoCo壱で見たような、王将だったかもしれないし、

地元の昭和から時が止まってる食堂だった気もする。


けれど、どこで見たかはまるで思い出せない。


それなのに、こいつは確かに我々の記憶に存在している。

「お水ご自由にどうぞ」で、しれっと、でも確かに、そこにいた。


■ 正体は象印


このポット、実はあの象印の製品である。

象印といえば、魔法瓶。炊飯器。おかゆモード。


でもこのポット、妙に素っ気ない外見のくせに、内部はしっかり二重構造の保冷仕様。氷なしでもキンキンに冷えた水がキープされる優れもの。


つまり、あいつは**“ただの水ポット”の皮をかぶった、冷却のプロフェッショナル”**なのだ。



■ 記憶に残らないという才能


なぜ我々は、あれほど多くの場面でこいつに会ってきたのに、どこで出会ったかを思い出せないのか?


それは、あのポットが持つ“究極の飲食店的空気読める力”のせいだ。


客単価が高い店には現れない。


おしゃれカフェにもいない。


でも「日替わり定食700円」の店には必ずいる。



気配を消して水を差し出す。

出しゃばらず、でもちゃんと仕事はしている。

いわば、**飲食業界の“ザ・陰の実力者”**である。



■ 売れてる、地味にバカ売れてる


このポット、実は40年以上売れ続けているベストセラー。

しかも年間に何万個も注文が入るというから驚きだ。


でもテレビCMなんて見たことない。

誰もSNSで「このポット買いました!」って写真もあげない。


それでも、確実に現場にいる。まるで水のように、静かに、どこにでも。



■ きみの横に、いつもいた


暑い夏、喉がカラカラで水をがぶ飲みしたあの日。

定食を待つ間、カウンターの片隅にあったあの影。

「持ち上げると意外と軽いな」と思ったあの感触。


すべてが、このポットの記憶である。


名前も型番も知らない。

でも、あいつがいたことだけは忘れられない。


というわけで、これはただのポットではない。


これは、“日本の飲食文化を支え続ける無名の主役”であり、水の守護神であり、

我々の「なんか見たことある感」を刺激してくる、謎の記憶喚起装置なのだ。


次に定食屋に行ったら、ぜひ見てほしい。

きっと、あいつがこっちを見てるから。


――「よぉ、久しぶりだな」って顔で。


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