昭和遺産➀金木犀の別名が可哀想。

 昭和で消えたものを考え、称えるシリーズ昭和遺産。


その第一回は金木犀の香り。


かつては「便所花」と言われるほど、トイレの側に植えられていたのは、あの香りのせい。


向田邦子の小説に出てきそうな趣がある。


中国では桂花陳酒の原料になる香り豊かなものを、「便所花」と呼ぶ日本人の大胆さが好きである。


暑い夏が終わり、爽やかな気候の秋が訪れると、そこはかとなく街に漂う金木犀の香り、って豊かな気持ちになりますよね。


清澄白河にブルーボトルコーヒーができて、行列に耐えて、初めて飲んだ時、街に金木犀の香りが溢れていた記憶ある。


トイレのそばに植えていた金木犀も、集合住宅化により、人工の芳香剤が取って代わった。


秋に街を歩いていて金木犀の香りがすると、トイレの匂い!と指摘する声があって笑ってしまった。


中学生の時、香りのするボールペン、と言うのが流行した。果物の美味しそうな香りから、まずそうなものまでたくさんの香料が使われたが、一番多かったのは金木犀だった。


毎日生活の記録をノートに書いて提出すると、担任の先生がコメントを付けて返してくれる課題があった。


香りのするペンがクラスで大流行、という日記を香りのするペンで書いて提出したら、女性の数学が専門の担任から、なんで筆記用具に香りが必要なのか意味不明!とコメントされて泣いたことがある。


いまや金木犀の香りのトイレなんて昭和遺産だろう。


あの金木犀の香りの、どこへ行ったんでしょうねぇ?