僕が泥棒だった頃

 子供の頃、社宅に住んでいた。


甲子園球場のような広さの一角に一戸建てのお家が庭付きで並んでいて、それ全体が塀で囲まれていた。


放課後野球やドッチボールをする公園もあり、何より同じ世代の人たちが暮らしていたので、子供が沢山いた。


お月見の時期になると、月見泥棒なる遊びをやった。


当時はお月見と言えば各家庭でお月見団子をすすきをいけた花瓶と縁側に並べてお供えしていた。

(サザエさんの家のような間取りたな)


それを庭に忍び込み、バレないように団子を盗む、という遊びだ。


♪盗んだバイクで走り出す、という歌詞が受け付けられない現代では考えられない習慣だが当時はおおらかさがあった。


またお月見には団子をお供えする、という古き良き習慣もあった。


みんな子供の遊びと笑って許してくれたのかとうかは知らないが、

特に問題になることはなかった。


年を経る事に、「こんばんは!お月見泥棒です!」と挨拶して人の家を訪ね、向こうも個別包装のお菓子を用意しておいて、それを渡す、という日本版ハロウィンのような振る舞いに変容してしまった。


まるで自らをルパン三世と信じ、銭形警部にバレないように抜き足差し足、忍び足でおし入り、息を殺して月見団子を盗んでこそ、お月見泥棒の醍醐味だと思う。





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