重い扉の向こうに幸せがあった。

 その店の扉は重厚で、開けるのも憚れる。

まるで、お客さんは、ウチのお客じゃないよ!と言わんばかりに。


上野のとんかつの最高峰、ポン太。とんかつというより洋食だ。

なんと明治から続くという。


店内には教科書に出てくるような文化人のサインが並ぶ。


池波正太郎、谷崎潤一郎、川端 康成、永井荷風、北大路魯山人、白洲 正子らが愛した、というだけで圧倒される。


いやこれに負けては

とんかつ研究会®

の名が廃る。堂々ととんかつを揚げる鍋の前のカウンター席に座る。


低めの温度で揚げるため待ち時間が長くなるそうだ。ビールを頼む。さすがラガービールだ。


こういう店はスーパードライなんで出さない。


出てきた漬物がうまい。

こういう店ではきゅうりのキューちゃんなんて出さない。


もはや期待値Max。


長い時間まつと、僕の愛おしいとんかつが出てきた。

明治から変わっていないんだろうな、という色白のとんかつ、うまい。


僕は高温でカラッと揚げた茶色い感じが好きなんですけどね、とカウンター越しの店主には言えないよ絶対。

支配がそこにある。


揚げて戴いた。

食べさせて頂いた。

それだけ満足できる重厚な時間、雰囲気。

この店で産まれて初めてとんかつに辛子をつけて食べるってことをしてみた。

溶けるようにうまい。


とんかつに三千円!

豊かな時間だ。


俺好きだよ、この味。


うまいとんかつを食べると藤竜也になる。


おっと、この店はとんかつではなく、「カツレツ」だった。


会計時に、お札と一緒にPontaカードを出したけど、くすりともされなかった。